目標粗利益率「40%」。業界はもちろん建設業界である。ただ、一言で建設業界と言っても様々な業種があるため、当然その全ての業種であり、全ての会社、全ての現場に適用できる数字ではない。
しかし17年間に渡り建設業界を専門に利益改善のコンサルティングをしている立場からすれば、今ではこの40%という数字は概ねどの会社でも使える指標であり、目標として使える数字になっている。少なくとも私の顧問先の方々においては、一部分だけという会社も含めれば、40%という目標数字を設定していない会社はない。
多少利益率が高い業種であり会社であっても、決算書における売上総利益率(いわゆる粗利益率)は良くても30%だとは思う。売上総利益率が40%もある会社は今まで見たことはない。
粗利益率40%というのは原価600万円の物件を1000万円で受注するレベルの数字だ。この物件の場合、粗利益額は400万円にもなる。一般的には大きな数字だし、とても無理な数字に思われると思う。しかしここで各社の一般管理費を考えてもらいたい。
各社の売上高に対する一般管理費率というのは、これも規模によっても全く違ってくるが、ならすと大枠では20%という数字になる会社が多い。売上高3億円の会社であれば、一般管理費は6000万円付近になるということだ。ここはそんなにも大きく外れていることはないと思う。
又、建設業界の各経営者が感覚的に目標においている粗利益率は20%という答えが多い。実際は20%すら目指していない会社が圧倒的に多いのだが、実際に出来ているかどうかは別として、質問すると20%という答えが一番多く返ってくる。
一般管理費比率が平均で20%、目標としている粗利益率が20%で、普通の会社が普通の感覚で見積りを提出し、現場を終わらせれば、ほぼほぼ会社の決算がプラスマイナスゼロになるというのが平均値及び平均的な考え方で挙げられるということになる。
体力のある会社はそれでもいいかもしれない。そこに減価償却が一定額含まれていれば、実質のキャッシュフローは一応は黒字になり、理屈上は余剰金が生まれることになる。又、借入金がなければ支払い金利もいらないし、残った純利益からの返済も発生しない。なんとかやっていける数字ではある。
しかしそれでもギリギリだ。加えてそれに借入金が少なからずある場合になると、金利で年に数十万円~数百万円、多い会社では金利だけで年間数千万円もかかっている会社もある。その僅かな純利益から毎月何十万円、何百万円、年間にして何千万円もの返済をしていくとなると、ほぼ立ち行かなくなる。それが企業が困窮する場合の超シンプルな理屈になる。
そういった会社に対して私は長い間、粗利益率30%というのを一つの基準に勧めてきた。30%を達成すれば、大体の会社で10%の余剰利益が生まれる。売上高が3億円の会社であれば余剰金(純利益)は3000万円だ。普通はそれだけあれば何とかなる。ただ、余剰金30%を目指すと言っても、最終的なアベレージでは30%はなかなか届かず、結果としては25%付近に辿り着くこと多い。それでも9割方の会社はそれだけ改善できれば十分に会社に利益は残り、それにより返済も出来ていた。
しかしそれでも全く届かない会社は一定数存在した。実例の一つで、売上高3億円の会社で借入金が5億円の会社があった。年間の支払い金利が1000万円。毎月の返済は170万円で年間で2000万円だ。合計で3000万円。しかしそれでも塩漬け状態の借入金はまだ残っていた。もう10年以上も1円も返せていなかったが、金利だけは払い続けている。もしその塩漬け借入金を仮に10年で返済するとすれば、さらに年間で3000万円の返済が必要だ。先程の2000万円と合わせると5000万円。つまり、最低でも5000万円の純利益が無ければ、返済期間を10年にしてもらったとしても成り立たないという理屈になる。塩漬け状態の借入金の返済を考えなければ、今のままでもとりあえずいいだろうが、その塩漬けの借入金もいつかは必ず問題になってくる。
売上高3億円の会社で、支配金利1000万円も払いながら2000万円もの純利益を出しているだけでも奇跡的な状況だ。営業利益だと3000万円、営業利益率で10%にもなる。それが営業利益6000万円で営業利益率20%、純利益5000万円で純利益率にしても16%もの数字が必要になってくるという事だ。普通にいけば、どうシュミレーションしても成り立たない。県の支援協議会が計画を組んだとしても、中小企業診断士が計画を組んだとしても、銀行員が計画を組んだとしても、最低限の塩漬けによるものを存在させないと物理的には不可能な数字だ。
一般的な改善計画では、それを「一時しのぎ的」に扱うことが多い。今、一旦これで進めて、またそのうち考えようとの考えだ。しかし先延ばしすればするほど追いつめられるのは、会社側であり経営者の方だ。
銀行のその時の担当者も、計画立案者も将来的にはもういない。将来的どころか普通は2年後にはもういない。よって、その人達自身は全く困らないのだ。その顛末を知ることもない。しかし実際には経営者の人達は、それらの金融機関の人達以上に危機意識が低い場合が多い。とりあえず数年は大丈夫か、後は景気でも良くなれば何とかなるか、などと安易に考えてしまう人が本当に多いのだ。
私も以前は、「確かにこれ以上はどうしようもないな、今の目標の営業利益率10%でもとてつもない数字だから、まずはそれをやり切ろう」などと考えていた時もあった。しかし本当にその会社のことを考えた場合、そのまま進んでもいつか終わりが来る。本当はそれではいけないのではないか、と数年前からようやく考えるようになってきていた。
もう一段のギアアップ。それこそが「目標粗利益率40%」だ。ここで上記の平均値をもう10%上げる。そこまでいけば全ての会社において、借入金がいくらあろうが流石に何とかなる。少なくとも私の顧問先の状態は全てにおいて何とかなるシュミレーションができた。
しかしいくらシュミレーションできても、40%は40%だ。そもそもそんな数字なんか出来るはずもない、と思われるだろうが、実は概ね何とかなっているというのが現状だ。最終アベレージ40%には流石にまだ届いてはいないが、多くの会社は概ね30%は超え、35%付近にまでは来つつある。本当にあともう一歩、という所だ。
当然、そこに辿り着くまでにそれぞれの経営者の方達には多くの葛藤と抵抗があった。しかし、「今のままでは先がない」ということであれば、皆やるしかなかった。粗利益率40%を提言した時の、難しそうな顔をしていた多くの経営者の方達の顔が今も思い浮かぶ。しかし、もうやるかやらないかである。出来なければ、今のまま行くしかない、いつか終わるがくるこの道のままで行くしかないのだ。
少なくとも、私が関わらせていただいている全ての会社が、本当の意味で現在の苦境を完全に脱しない限り、上記の手法は完成したとは言えない。よってまだ道半ばである。しかしその道は、三分の一位~半分過ぎくらいまでは来ている。確実に進んでいる。
目標粗利益率40%。全ての会社がこの頂に届いた時、経営改善、利益改善の概念は完全に変わると個人的には思っている。