建設業界は4大管理から5大管理の時代へ突入してきた

建設業界には「工程管理」「品質管理」「安全管理」「原価管理」と4つの大きな管理項目がある。各社、出来ている出来ていないは別にして、建設業界に携わっている人であれば、聞いたことはある人は多いと思う。

 

私が2016年に幻冬舎から出させていただいた最初の書籍、「建設業のための経営改善バイブル」でもその詳細について述べてはいるが、その中で、この業界に携わっている人が最も意識しているであろう管理項目が「工程管理」になる。これは私自身もサラリーマン時代に現場を管理していた時に何よりも意識していたこと、というより気にしていたことだった。「工期に間に合わせないといけない」、ほとんどこの思いに占められていると言っても良かった。もちろん実際は、安全や品質を守ることは大事なのだが、本心の部分ではまず工程・工期・納期が頭を占めていた。

 

会社単位で考えた場合、工期はもちろん、やはり品質のいいものを、安全に納めないといけないというのはある。しかし、予算に合わせるために、VE案などを出している時点で、品質などを完全に維持するのはかなり難しくなっている部分は実際にある。同じような品質のものを安価で納めるというのは、出来なくもないだろうがやはりどこかで無理はくる。VEの現実としては個人的にはいつもそのように感じていた。安全は担保しなければならないが、安全第一とまでは出来ていなかったような気はする。

 

そして原価管理だ。書籍にも書いたが、これが4大管理項目の中では、業界の方々の意識ベースでは一番低い管理項目だと感じている。原価意識などほぼほぼ持っていない会社も多い。安い現場を各社の現場担当に無理やり管理させる中で、そもそも低利益や赤字の現場に原価管理も何もないからだ。どれだけ優秀な現場担当者が原価を緻密に管理し、支出をコントロールしても、どうにもならないようなレベルの受注の現場は、世の中には、そして各社には未だに多い。

 

書籍にも書いたが、その原因としては、4大管理のうち「原価管理」のみが、内向きの管理だからだと考えられる。内向きというのは自社の社内に向けてのものということだ。他の3つの管理項目は相手、つまり顧客に影響を与えるので、否が応でもミスは出来ないし、意識もする。しかしこの原価管理は、他の3つさえできていれば最悪いいだろう、という風潮さえ持たれているようだ。自社だけにしか影響を及ぼさないからだ。

 

現場担当者は現場担当者で、予定の原価を大きく超えても、様々な理由であり言い訳をしてくることが多い。自分の管理が悪く、意識が低かったから原価オーバーしたなどとは絶対に言ってこない。「現場に問題があった」「天気が悪かった」「工程に無理があった」「他の業者に問題があった」「元請けの担当者の段取りが悪かった」、そして「そもそも受注金額が低いからこうなった」「会社や営業が全て悪い」「社長が悪い」など、それぞれに一理はあることではあるが、それが全てだというような言い方で言ってくる。だから出来なかった、というのは本当は説明などにはなっていない。要は自分が意識していなかっただけのことだ。意識したくなかっただけのことだ。ただただ面倒だったから。

 

過去、コンサルティングの現場で現場担当者とは1000人以上面談してきたが、本当に意識してきちんと原価管理していた人など多分10人もいなかったと思う。しかし、そういう風にしてしまったのはもちろん会社側に責任がある。その人そのものの性分もあるだろうが、会社はやはり受注時点や引継ぎも含めて、担当者に原価管理の意識づけはさせなければならない。彼らが納得する形で現場を任せ、引継ぎしないといけないのだ。

 

なとという、どこかにありがちな理屈だけをここで述べるつもりなどない。そういう現状を踏まえて考えた場合、そもそも4大管理などだけでは現場は正しい形で納めることはできない、ということを言いたかっただけだ。

 

いくら工程を正しく管理して、いい品質のものを安全に納めたり施工できたとして、又、社内においては決められた原価にきちっと納めることが出来たとしても、そこに利益が残るとは限らない。原価管理をすれば、やらないよりは利益は残るが、利益がいっぱい残るとは言い切れない。

 

全てはその入り口にカギがある。各現場の利益は、「受注単価」そのものに一番大きく影響されてくるのだ。納入する会社目線で見た場合、極端に言えば、ザル(かなりの甘め)のような原価管理で現場を納めたとしても、超高単価で受注さえしていれば、会社に利益は残るということだ。

 

まして今は材料高、労務費高の時代。原価管理である各業者との交渉や相見積もりなどをいくら頑張ったとしても、金額が下がらないケースは多い。下手をすると見積有効期限そのものが短く、きちんと金額を決めても納品時には再見積もりをしないと金額が上がってしまうケースなどもある位だ。当初予算の原価を「下回る」原価で抑える管理などは本当に難しくなってきている。そしてその傾向は今後更に拍車がかかってくるだろう。

 

今後意識しなければならない新たなるもう一つの管理項目、それこそが「受注管理」だ。これは当社がベースとして主張し続けている「目標利益管理」の同義語に近いニュアンスがある。各社いかにして受注するか、どの金額ラインで受注するか、粗利益率をどうするかなど、各社で受注した「現場の全て」を会社としてどのような数字の基準で管理していくか、ということを徹底して意識していかないといけないと私は思っている。

 

この「受注管理」があって初めて「原価管理」に「意味」が出てくる。というより受注管理があってこそ、原価管理が存在すると言ってもいい位だ。「受注管理」をベースにした上で、「原価管理」を施しながら、「工程」を守り、「品質」を守り、「安全」に納品・施工する、というのが本当の「受注から引渡し」までの正しい流れになると言える。

 

どれだけ細かで高価な原価管理ソフトを入れても、そこに人材を何人も投入し原価管理の体制を整えても、原価・原価とどれだけ経営者や工事部長が言い続けたとしても、受注金額そのものが低ければどうしようもないのだ。少ない少ない入ってくる水をどれだけ大事に扱ったとしても、それには限界があるということだ。そして今それがとてつもなく如実に出てくる時代になってきた。

 

「受注管理」が出来ない会社は今後衰退していくと言い切ってもいい。いかに受注していくか、そこにどのような自社のルールを作りこむか、そしてそのルールをいかにして守り切れるかということが大きなウエイトを占めてくる。その手段のあくまでも1つとして、原価管理が存在するという考え方に持っていかなければならない。

 

建設業界は4大管理から5大管理へ。この新たに「受注管理」が加わった時代に建設業界は完全に突入している。そしてどのようにその受注管理を行っていけばいいのか、という流れに向かわざるを得ないだろう。

 

そしてそこにこそ、当社のコンサルティングの本質がある。