「なんでそんな仕事を受注したんですか?」建設業専門の経営コンサルタントとして起業して18年、多分今まで1000回以上は言ってきたセリフだ。
各社や各経営者のその「受注スタンス」に関しては、本当に心から不思議に思うことばかりだ。「なんでそんな仕事を受注したのか?」そこには皆さんなりの事情や考えがあるのだろうが、その1000回の私の問いに対する1000回の回答で、納得できたことなど一度もない。むしろ「そんなことばっかりしてるからうまくいかないんだ」と必ず思う。
その思いをそのまま経営者に言う時もあれば、もう何もいわないこともある。言ってもどうにも聞きそうにない人には、言うだけ時間の無駄、感情の無駄遣いと思い、最近は黙っていることも多い。「じゃあそのまま頑張って続けていてください」、言っても聞かないのなら、実際そうとしか言いようがない。
会社の経営であり利益など、営業の体制や原価管理、そして社内システムや現場体制や組織の在り方、そして人員不足や材料高などの、様々なそれっぽい原因はあるものの、結局8割方は「受注の仕方」で決まると私は思っている。「経営改善」というと、無駄をなくしシステムを構築する、などという人が本当に多いが、「こいつは何言っているんだ?」とその安易な真因分析にもいつも辟易する。
受注の仕方さえ直せば、大体の会社はV字回復する。いや、大体ではない。100%の会社は回復すると断言して言っていいい。では何故そこに皆着手しないかというと、実はそれこそが「一番難しい」からだ。原価管理や組織やシステムなどの、「内向き」の改善に目を向ければ、その内向きの内容が表面上いかに難しそうでも、実は簡単であり手をつけやすいから皆そこに目を向ける。場合によってはその部分を、それっぽいコンサルなどに頼むことなどもあるだろう。
なんでそんな仕事を受注したのか?そんな仕事とは主に「安い仕事」のことだ。建設業界であれば赤字工事の受注なども王道とも言える。結果的に赤字になっただけ、という人も数多くいるが、結果的になどということはほとんどない。実際は最初から社内の「誰かは」感づいていたはずだ。それを経営者や営業担当者が黙認しただけのことだ。他には、利益率が低い仕事、リスクが高い仕事、遠方の仕事、そんな仕事とはそんな所だろうか。
そしてその受注理由も限られている。「仕事が少なかった」「やらないよりはマシ」「順番だった」「最終的にはなんとかなると思った」「社員を遊ばせておきたくなかった」など、皆示し合わせたように同じことを言ってくる。「そんな仕事、断ればいいのでは」と私が言うと、鬼のような反論が返ってくることまでもう「決まって」いる。
これってデジャヴ?と思ってしまう位に同じシーンを今まで1000回以上見てきた。業務を大幅に減らしている現在でさえ、先週だけで4回はそのセリフを聞いた。同じセリフを何年も言い続けている人もいる。そこにはもう私もあまり突っ込まないようにしている。
その結果、自社の業績はどうなっているのか?前期、前々期、そしてこの10年はどうだったか?純利益は増えているか?借入金は減っているか?債務超過は解消できたか?資金繰りは楽になったか?社員さんは皆喜んで付いてきてくれているか?と、そのシンプルな問いの答えの中に本当の答えはあるのではないかと思う。
しかし概ね皆、頑としてそのスタンスは変えない。私の顧問先の経営者でさえ、未だに100%という訳ではない。変な言い方だが、私が隙を見せると皆、そのような現場をすぐに受注してくる。理由を聞くとまた同じようなことを言ってくる。そして私は言う「なんでそんな仕事受注したんですか?」。この状況は延々と続くのだ。もう誰にも止めることはできない。
そういえば昔、吉田栄作のドラマに、「もう誰も愛さない」というのがあった。何故かそんなタイトルも今となってはとても懐かしい。「もう誰にも何も言わない」そんな日も少しずつ近づいている。