新規事業も含めて、可能性の低い挑戦はすべきかどうか?過去出会ってきた経営者の中で、「挑戦」を好む経営者は比較的多かった。
「挑戦」こそ美学という感じで、中でも「異業種」に向かっていく人も何人かいた。では、どのラインで「挑戦」を決断すればいいのだろうか?
挑戦する事は悪い事ではない。異業種に行く事も同様だ。個人的には積極的には勧められないが、そこに自分なりに活路を見出し、向かっていく姿勢そのものは、本当に素晴らしいとは思う。しかし問題は、その根拠であり前提、そしてその投資額と成功した場合に得られる金額とのバランスにある。
以前、ある土木工事業の会社の社長がラーメン屋を始めた。その会社の売上高は約5億円。借入金は既に3億円以上もある。金利だけで年間1千万円以上。直近の売上総利益が赤字である。
この会社の現状の凄さが分かるだろうか?最終利益が赤字でもなく、営業利益が赤字でもない。売上総利益、つまり粗利益が赤字なのだ。年間に受注した仕事を全部ひっくるめて赤字になっている。ここから年間の一般管理費の約7000万円が引かれて、年間の営業赤字は億に近づく。この時点で「地域創成」を掲げ、ラーメン屋を始めたのだ。
厳密にはその少し前から始め出していたのだが、そのラーメン屋が更にその会社の業績の足を引っ張ったのは言うまでもない。経営者は自ら店舗に赴き、率先してラーメンを作る。現場管理の主力の社員をもラーメン屋に行かせ、会社総出でラーメン屋を支える事をしていた。
経営者と工事管理者が会社にも現場にもいないので、本業の土木工事業は更なる苦境に陥る。しかもそのラーメン屋も当然のように儲からない。そしてここも赤字になる。その後、更に2店舗目をオープンさせる。店の改修費用、家賃、厨房器具代、そして店長や店員の雇用で、借入金の額は更に膨らむ。貸し出す銀行も銀行だ。
その時点で、その銀行の依頼でコンサルティングに入らせてもらったのだが、何故か経営者は自信満々。挑戦している自分に酔っており、私との初対面でわざと30分の遅刻をしてきて、来るや否や足を大きく組んで身体を反って対応された事は、今でも忘れる事はできない「いい思い出」となっている。
結果として、店舗の1つは閉鎖してもらった。もう1店舗は経営者の「懇願」により、ギリギリの採算ラインまで落ち着かせて何とか継続する事にした。経営者は店舗を畳むのが余程嫌、というより周りの目が気になったのだろう。気持ちは分かるが、倒産する方が余程恥ずかしいはずだ。紆余曲折の結果、本業も黒字になり、経営改善に5年以上かけてその借入金も「返済の道筋」が何とかつくようになった。その後、当然のようにその経営者と私は袂を分かつことになる。
長々と事例を「思い出」に浸りながら書いたが、言いたい事はそんなことではない。成功の可能性の低い挑戦は誰しもあると思う。異業種の挑戦そのものもあるとは思う。そもそも成功率が高い挑戦などというものはあまりないと思うし、皆がやっている事をやったとしても、成功した際のリターンも多くはないとも言える。
しかしただ1点。「大きな借入金」をしてまでの「挑戦」はしてはいけないと思っている。特に中小零細企業の場合だ。
最初は少額の借入だったとしても、結局は追加の借入をどこかでしてしまうものだ。よって、今ある自己資金の「余剰」の範囲で新規事業への「投資」を行うのが「最低限」の条件だと私は思っている。
後は、採算を「厳密に算出」しておく事だ。多くの新規事業の失敗事例を見てきたが、皆、その全てのシュミレーションがかなり甘い。シュミレーションそのものをしていない事業も多かった。
それらを見て思うのだが、大体が思い描いたシュミレーションの「最低ライン」の数字の「半分程度」で落ち着くと思っておいた方がいい。「予想最低ラインの半分」だ。要は皆、最低ラインの設定が弱いと言える。だからうまくいかなかった時に、想定以上の損失を出してしまう事になる。最低ラインの設定の半分で終わったとしても、自己資金の「余剰」の範囲でできる「挑戦」ならやってみてもいい、というのが「ギリ」の設定だと個人的には思う。
何より、「挑戦」したいなら、本業でしっかりとした業績を残す事が前提の前提だ。はっきり言って、本業で十分に利益を出せる「センス」がない経営者がどうして「副事業」を成功させる事ができるであろうか。
まずは本業の成功と安定が「挑戦」の前提の全てだと思う。次に向かいたい時も気持ちとしてはあるだろうが、それにはまずは本業で結果を出してからにしよう。
NPBでしっかりと結果を残してからメジャーに行った方がいいということだ。
