「顧客の希望には黙って従う方がいい」。何か一見、「本当にそうかな?」と思ってしまいそうな内容です。顧客の要望は要望として、将来的にも「本当に顧客のためになる」アドバイスやサービスをきちんと考えて提供するのが正解と一見思われがちです。
私も今まで本当に様々な相談を受けてきました。「会社の利益が上がらない」というのであれば、私の業種であれば「普通」の相談ですが、「起業したいけどどうすればいいか?」「採用をどうすればいいか?」「社員をまとめるにはどうすればいいか?」などという会社内の問題だけでなく、「夫婦の関係をどうすればいいか?」「子供達の学校や教育はどうすればいいか?」などと、経営には全く関係のない、人生相談的なものも様々あった位です。
そういった中で、何年か前に知人からの紹介の相談で、「起業する際にどこで資金を借りればいいか?」というものがありました。20代の息子さんとそのお母さんからの相談です。相談される事自体は、事務所等に来ていただく分には、最近は特に出し惜しみする事もないので、その時にも真剣に考えて助言させていただきました。
内容としては大まかに言えば、①20代のお子さんが個人で起業する②トリミング系の業種である③自宅を大きく改装する④500万円程度を借入したい、そして相談の本題は、「借りる際は、銀行か信用金庫か政府系のどこがいいか?」というものでした。
これを読んでいる皆様でも分かるでしょうが、起業する際に、「多少の」初期投資はいるでしょうが、上記のような内容にいきなり個人で500万円以上かけるには流石にリスクがあると普通に思うと思います。
まだ固定顧客もほとんどいない状況でしたので、まずは事業をある程度軌道に乗せるまで無理に設備投資はせずに、現状の自宅で数万円程度の改装から始めて、出張トリミングなどをして徐々に顧客の固定化を試みてはどうか?と、私も思ったままの助言させていただきました。
先方の要望は「どこからお金を借りればいいか?」であるのに、私は「その事業をリスクなく成功するにはどうすればいいか」と、多少先読みした回答をしたのです。先方、特にお母さんは明らかに怪訝な表情をされていました。「そんな事は誰も聞いていない」そんな感じでした。
息子さんが自宅を改装をして店を出すというその事が嬉しかったのか、誇らしかったのかと思います。周りの知人にももう何人かに話している口ぶりでした。「今更、まずは資金を投じずに始めるなんて」と思われていたのだと思います。
私的には明らかにリスクがある借り入れだったので、どうしてもそのような助言になってしまいました。最後に、「今回の相談の費用を払います」と言われましたが、別に相談業でもないのに加えて「若干」不満そうな感じだったので、お金などいただかずに帰っていただきました。
その後数ヶ月して、その人を紹介してきた知人からその方がどこかで何百万円かお金を借りて、改装をして店を出したと聞きました。ご本人からSNSのアカウントも聞いていましたので、状況を見た所、かなり大きめの改装をしてオープンしたようでした。
そして更に数ヶ月経った頃、そのアカウントはもう消えていました。私がブロックでもされたのかな、と思っていましたが、どうもそんな事もありませんでした。知人の話では、事業はうまくいかずに撤退、その後、その借金を返すために、近くでアルバイトしていたようですが、その後にその息子さんはどこかに行ってしまったとの事でした。
その方々の詳細や背景は分かりませんが、その話だけ聞いていると、こちらが想像した通りになっていました。先程、私が書いたように、私に先見の明があった訳でも何でもなく、誰もが普通に考えればそう思われる内容でも、「その気になった人」の思いであり、考えを変える事は人にはなかなかできないという事です。
そういう事が私自身も過去の相談やコンサルティングの中にいくつかもあった中で、私は自分自身への相談や依頼だけでなく、自身の顧問先の方々にも最近はずっと同じような事を言っています。「顧客の希望には黙って従う方がいい」と。
相手の為を思って何かを助言したり、話をしたりしても、驚くほどに相手は耳を傾けてはくれません。それは私などのコンサルティング業にも言える事です。私にお金を払ってコンサルティングを希望されてきた方でさえ、その多くは「最後の最後」にはご自身の考えややり方に戻っていかれます。
これは決して投げやりな言い方などではなく、「顧客の希望には黙って従う方がいい」と今は思っています。その方向の中で「少しずつ」意見を言いながら、その方々に「その気」になってもらうしか方法はないのかな、と今は思っています。
